データサイエンティストの備忘録

外資系コンサルティングファームでデータサイエンティストとして働く筆者がコンサルティング関連の知見やデータ解析技術を活用するために学んだ内容の備忘録

【読書メモ】マーケティングオートメーションに落とせるカスタマージャーニーの書き方

 

読んだ目的

  • 仕事でマーケティングオートメーションツールを使った顧客育成を行う必要だったため
  • カスタマージャーニーの具体的な描き方を知るため
  • 分析観点をカスタマージャーニーのKPIに沿って作成し、施策実施の判断材料とするための検証観点が明確になかったため

得られた学び

  • パーセプションとは客観的事実ではなく、人それぞれが自らの知識・経験・価値観等に従って感じたり判断したりした結果の印象や評価
  • 望ましいパーセプションを正しく設定できることが重要となり、マーケターの実力となる。パーセプションと購買行動の関係(消費者行動⇔消費者心理=パーセプションの関係)を明らかにするためには、購買行動(目的変数)を説明するパーセプション(説明変数)を統計的に探す必要がある。
  • マーケティングは最後はコンテンツ勝負となる。本人の興味関心やニーズとの一致は必要条件ではあるが、十分条件ではない。コンテンツ自体に驚きがあることが重要である。
  • カスタマージャーニーでは皇帝によって手法とコンテンツが変わることを想定し、パーセプションチェンジが発生した後は次のパーセプションチェンジを起こすための施策を打つ必要がある。これらのパーセプションチェンジを行動履歴によって把握するための指標が必要で、その指標を遷移指標という。
  • カスタマージャーニーの主たる行程をパーセプションで規定することは、ターゲット顧客が実際に思う言葉「顧客言葉」で表現することである。顧客に「どう思ってほしいか」を起点にアイデアを出し、「顧客言葉でパーセプションを描き、そのパーセプションチェンジの連鎖でカスタマージャーニーを描く」

 

カスタマージャーニーの作成手順

1. 目標の策定

長期的な目標を策定する。Webであれば月間アクティブユーザー数(MAU)やLTV(Life Time Value)最大化等がある。「潜在顧客⇒見込顧客⇒ホットな見込顧客⇒顧客⇒リピート顧客⇒プロモーター」。大きい買い物だけでなく、コンビニ等の小さい買い物の場合は1つ1つの商材は1to1マーケティング必要ないが、LTV最大化する必要がある。

  • 高額商品:契約獲得(年間契約件数)
  • 長期間の購買行動を期待する企業(上顧客xx万人獲得)
  • 顧客間の推奨行動が大きな影響を及ぼす商品・サービス/購買データと個人情報が紐づかない企業:ファン獲得/アンバサダー獲得(アクティブ会員50万人)
  • 企業(採用):優秀な人材獲得(200人採用)

 

2. ターゲットとニーズの策定

「当商品はxなニーズを持つyな人に買ってもらう商品」と規定する。SWOT分析3C分析で勝算の高いターゲットを見極める。1to1マーケティングの設計図作成で留意すべき3点

  1. ターゲットの規模感:10万人単位のボリュームでも十分大きいボリューム
  2. 競合の存在:ライバル会社と差別化を生み出す差別化/強いライバルが不在のターゲットに変更
  3. ペルソナ化:クラスター分析してペルソナを作成。ペルソナは多くても3つ、カスタマージャーニーは基本構造を同じにしてコンテンツの違いでそれぞれのペルソナに対応する

 

3. スタートとゴールの策定

スタート地点:規定したターゲットやペルソナが十分か検証し、顧客言葉でパーセプションを記述する(例:そろそろ車を買い替えてみようかな)

ゴール地点:目標策定で決めた目標をパーセプションに置き換える。キャンペーン型であれば「買う・契約」がゴールになるが、エンゲージ型であれば「会員継続しよう」だけでなく「他人に推奨しよう」がゴールにもなり得る。

 

4. 全体行程の策定

行程は車の場合は4ステップある

  1. 想起集団入りを目指す(見込顧客,リード):何か買いたい・したいと思った時に頭の中に想起される選択肢集合に含まれること
  2. 興味深化を目指す:選択行動を続ける顧客の有力選択肢として競合の中から生き残ることが目的で、高額商品であるほど長期化する
  3. 最有力候補として選別されることを目指す:競合と比較検討している行程で、想定ライバルと比較されたときの違い・優位性を伝える
  4. 本気で今買いたいという気持ちにさせることを目指す:「いつ買うか」から「今買いたい」にパーセプションチェンジを起こすために、コンセプト策定を行う。「xがある人生は最高!」といったパーセプションを具体的に記述する
  5. 最後の一押し:「今すぐ買いたい」見込顧客を決断に至らせるパーセプションチェンジを起こす。ここは営業部門やコールセンターの仕事となる。リピート前提の商品の場合は常に競合の存在は消えないため、満足度の高いサービスを提供し続けることが重要となる。

5. 遷移指標の策定

カスタマージャーニーをマーケティングオートメーションに落とし込むには遷移指標の策定が必要となる。パーセプションチェンジの証となる指標を検討する。遷移指標となるデータは下記のような指標がある。これらの指標を使い、パーセプションチェンジの結果発生した行動を検知する指標を設定する。

  • クッキー取得(1st Party):自社商品に興味が芽生え情報収集意欲が発生
  • 自社サイト訪問回数・頻度・滞在時間:自社商品への興味関心、購買意欲の高まり
  • 閲覧ページ:顧客の興味のある内容を検知
  • 動画閲覧:魅かれている自社商品、閲覧時間から関心の高さを検知
  • 広告・メール・スマホアプリ等への反応:開封状況、クリック状況による自社商品への関心の高さを検知
  • 流入検索ワード、流入元:ビッグワードの検索か商品名等の検索ワードの違い、流入先が比較サイトか競合サイトからの流入等で、商品選択行動の進展や購買意欲を検知
  • 個人情報獲得:
  • 特定行動補足(ホットリード判別):商談予約等で、マーケティング部門から営業部門への送客ポイントでKPIになる
  • 位置情報データ:最終成果になる場合もあり
  • 購買データ
  • ソーシャルメディア行動(エンゲージ)データ:購買データの取れないファン獲得マーケティングの中核的指標
  • 自社コミュニティ行動(エンゲージ)データ:購買データの取れないファン獲得マーケティングの中核的指標
  • 最初に決める遷移指標はゴール1歩手前の指標を決める。マーケティング部門から営業部門・コールセンター部門に送客する条件の指標を決め、その後はカスタマージャーニーの上流下流のどちらかから順に作成する。

6. 手法の策定

デジタル手法

  • データなし:アウトバウンド型(消費者に企業からアプローチ)とインバウンド型(消費者からアプローチ)がある。アウトバウンドはディスプレイネットワーク広告、DMP、SNS広告等がある。インバウンド型はコンテンツマーケティングとリスティングがある。
  • クッキー取得:リターゲティング、リコメンド、ウェブサイトパーソナライズ等
  • 個人情報取得:メール・アプリプッシュ配信等。顧客への深い理解に基づき、顧客にとってうれしい内容・タイミングで伝えることが重要で、一方的なコミュニケーションをすると見放される。

リアル手法

  • データなし/クッキー取得:プロモーションと呼ばれる施策で、デジタル手法の弱さを補完する手法となる。リアルならではのライブ感が重要となる。カスタマージャーニーの中で、自社商品に興味を持っているユーザーがターゲットとなる後半に実施すると効果的である。
  • 個人情報取得:電話やダイレクトメール、営業マン自体との対話という究極の1to1マーケティングである。リーチが極端に狭いため、カスタマージャーニーの最後の顧客獲得で実施すると効果的である。

マスメディア手法

  • テレビが未だに主な手法だが、理由は圧倒的なリーチと視聴意志に関わらず視聴させることができる。マーケティングには顧客獲得とブランディングの2種類の目的があり、メジャーで誰もが知る商品となり皆が同じパーセプションを共有すること、潜在顧客層に短期間に知ってもらいたい状況で有効となる。

顧客獲得後の手法:購買データ取得によるLTV最大化

  • CRMによるマーケティングで、顧客の上顧客化、長期優良顧客の育成・確保を目標とする。アフターマーケティングとも呼ばれる。
  • 購買データを活用してリピート購入、離脱阻止による長期継続利用、一人当たり購入金額や利用頻度アップにつなげる。
  • 個人情報が取得できているタイミングのため、メール・DM、1to1のPUSH配信、コールセンターからの電話、営業マンとの直接対話といった施策が有効となる
  • 属性データ・購買データ・ログデータ・メール等への反応データをしっかり分析して、どの顧客に、どのタイミングで、どのコンテンツを、度の手法を使って伝えるかを設計する
  • 「顧客⇒やや上顧客⇒上顧客」への変遷のカスタマージャーニーを描く

 

7. コンテンツの企画

  • 最もクリエイティビティが求められる部分でコンテンツ(配信文言やメールで訴求する内容)はオリジナリティが重要となる。
  • 同じ製品であってもコンテンツをターゲットのニーズによって細分化して打ち分ける。1つの製品で2~3パターン、多くても5~6パターンとなる。
  • 同一人物であっても情報の摂取や体験によってほしい情報は変化するため、パーセプションによってコンテンツを出し分ける
  • 購入後はアップセル・クロスセルを狙うため、満足度を上げるための施策を。使い方で困っている人には正しい使い方、上顧客になった時の特典等を進める

 

8. KPIの策定

顧客獲得が目標のKPI

  • 広告(DMP、キャンペーンコンテンツマーケティング):見込顧客獲得数・単価(個人情報獲得、クッキー獲得)。リードジェネレーションでマーケティング実施
  • メール・アプリ・DM・ウェブパーソナライズリターゲティング:ホットな見込顧客獲得数・単価(営業部門への送客)。リードナーナーチャリングでマーケティング実施
  • 全ての施策:長期優良顧客・上顧客獲得・単価。CRMマーケティング実施

長期優良顧客・上顧客育成、ファン育成が目標

  • 長期優良顧客・上顧客獲得数
  • 離脱数・離脱率:絶対値や割合の高い低いの判定は難しいので、目標獲得数(新規獲得数-離脱数)のトレンドを見ることも重要である
  • エンゲージ行動:ファン育成が目的の場合はファンコミュニティにどの程度参加しているかを指標とする。例えば、最低週1回は何等かの参加行動をする等を指標とする。

 

カスタマージャーニーの作成事例

1. 輸入高級自動車(高額商品):1IDを連携してメーカー(マーケター)からディーラー(営業)で協業

2. 健康食品F(継続購入商品):複雑なコース分けを処理してLTV最大化

  • 定期購入、離脱阻止、アップセル・クロスセル、ファン育成といった目的別のカスタマージャーニーを作成
  • 離脱防止:利用頻度・分量低下傾向のあるユーザーに対して電話で不満点を確認
  • アップセル・クロスセル:追加利用を促すページを訴求、他商品をオススメ

3. 地方温泉街(縮小市場):複数ターゲット別にカスタマージャーニーを描いてマーケティング

  • 首都圏顧客:良質温泉や歴史散策等の興味別にカスタマージャーニー作成
  • 地元近隣県リピーター:興味別・会員ステータス別にカスタマージャーニー作成

4. ビジネススクールMBA学生募集:セグメント別・行動別の密度の高いエンゲージ型マーケティング

入学までの指標構造をファネルで描き、①日本MBAへの興味、②ウェブサイト訪問、③説明会参加、④出願、⑤合格から入学までのそれぞれのタッチポイントにおけるカスタマージャーニーを作成する。

5. 新業態メガネチェーン店:O2Oカスタマージャーニー

6. 乳業メーカー:全社的なファン育成のためのカスタマージャーニー作成

ファン作りコミュニティマーケティング構造におけるMAの役割は主に4つある

  1. 上位コミュニティへの誘導:ファンをコミュニティに誘導
  2. 低エンゲージ者/休眠者の活性化:ターゲティング文言のあるメールの配信
  3. 下位集団への拡散促進:低エンゲージユーザーへの投稿やコンテンツの拡散
  4. ピラミッド構造に属していない人の発掘:高エンゲージなファンと類似した特徴を持つファンの抽出

 

今後のToDo

  • 現在携わっている業務に適用してカスタマージャーニーを作成してみる
  • クラスタリングしてペルソナ像を明らかにする