読んだ目的
- 業務で需要予測や需要シミュレーションする機会が増え、機械学習モデルだけでなく、十分なデータがない場合のシミュレーション方法を学ぶため
- 業務適用する際の勘所を学び、どのように需要予測をビジネスで活用するか、特にキャンペーン施策等のビジネスケースの意思決定するかを学ぶため
得られた学び
本書ではSCMのケースが多く紹介されているが、現在担当している業務はマーケティングや事業計画等のビジネスプランニングかつ物理的な在庫のない製品を担当しているため、S&OP(Sales and Operations Planning)と呼ばれる新商品・既存商品のマーケティング施策とSCM管理を融合して戦略的計画の策定プロセスの中でもマーケティング寄りの視点で記載する。
予測モデルに入る前に、需要予測と予算・事業計画は異なる概念である。需要予測は定量分析に基づき、マーケ・営業・SCMなどの機能が協働で行う。人的判断を伴う意思決定である。一方、予算・事業計画策定は財務的な目標である。予算には売上目標の側面もあり、ある程度連動する必要はある。
需要予測モデル
需要予想モデルには大きく3種類に分類される。
- 時系列モデル:販売実績等を分析し、水準やトレンド、季節性の特徴を抽出するモデル。ARIMAや状態空間モデル、指数平滑法などがある。
- 因果モデル:需要と、それに影響する説明変数の因果関係をモデル化したもの。重回帰分析や機械学習などがある。
- 判断的モデル:さまざまな情報をもとに人が意思決定する方法で、トップダウンの目標設定や営業担当からの報告値の積み上げなどで計算する。
【過去データのある商品の需要予測】
時系列モデルでの予測は2年から3年分の販売実績が必要で、少なくとも1年3ヶ月分のデータは必要となる。過去データの背景を踏まえた補正が必要となる。
- 品切れ:原材料調達の課題や輸送の問題により、売上が極端に小さくなる
- セールス・プロモーション:CM等のマーケティング活動の影響により増減する
- 2年目の需要:新製品発売時の需要が高い時期のデータを補正する
- 需要の水準変化:他社商品の販売や取扱店舗数増による水準の増減
需要の変曲点は移動平均前年比で検知する。定義は"本年の移動平均"/"前年の移動平均"となる。3種類の移動平均を計算することで、トレンドの解釈が可能となる。
【新商品の需要予測】
新商品の需要予測ロジックは次の3種類に分類される。
- 判断的モデル:経営層からの計画(目標に近い)、消費者心理・購買行動フェーズ(AIDMAなど)の遷移率を推定するAssumption based modeling
- 定量的モデル:過去の類似商品データを活用した時系列モデル・回帰モデル
- 市場調査:市場規模推計のためのテストマーケ、コンセプトテストなど
新商品需要予測における因果モデル設計が次の要素を盛り込んで構築する。
- 新商品の需要 = 「類似商品の過去実績」x「該当カテゴリーの市場トレンド」x「ロジカルに算出できるニーズ差」x「マーケティング要素比較」
S&OPのための需要予測
S&OPとは経営の意思決定をSCMの側面から支援するという概念である。今担当しているサービスは在庫を持たないサービスのためSCMとは直接的に関係はないが、経営の意思決定を支援するための需要予測という観点で活用余地は大きい。
S&OPを回すためには次の4つのプロセスがある。
- Demand review: マーケ/営業と需要予測と販売計画を比較し、コンセンサスを得る
- Supply review: 生産・調達が需要計画・供給制約の比較
- pre-S&OP: 財務・販売等の部長層が中長期リスクに対して対応・経営層への提案
- Executive-S&OP: 経営層に対して中長期リスクへの対応に対する意思決定
議論内容はKPIや以前に決めたアクションのレビューと新たな需給リスクへの対応である。過去に想定したリスクの結果、アクションの効果を振り返る。最終的に経営層の意思決定プロセスに関わるので、S&OPを回すにはトップマネジメントの支援が不可欠である。
需要シミュレーション
需要シミュレーションでは未来の不確実な条件や、起こらなかった過去の施策効果を試算することでナレッジを創出する。具体的なシミュレーション方法が記載されていたが、業務に活用できそうな次の2つをメモする。
【1. プロモーション効果試算】
プロモーションは前年同期間の実績との比較をベースに試算する。試算する上での前提条件は次の2点である。
- プロモーションが行われていないこと
- 過去1年以内に需要トレンドに大きな変化がない
例えば、6~8月がプロモーション期間の場合、4,5,9月の前年比%の傾向が6月も当てはまる場合を今年の仮想値として、実績との差分から効果を算出する。前年にプロモーションが行われた場合は1の前提条件を満たさないため、影響を除く必要がある。前年のデータがない場合は、類似商品や類似キャンペーンを使って行う。
【2. カニバリゼーション予測】
限定品販売による売上伸長効果は、そのまま伸長効果とはならず、別商品とカニバリが起こっているため、限定品販売によって需要が影響を受けたであろう商品も含めて複数商品合計の売上から試算する必要がある。限定品販売の効果は次のように試算する。
- 売上伸長効果:限定品含む特定カテゴリー合計実績 - 類似商品の仮想的需要予測
- 類似商品への影響:限定品以外の類似商品の仮想的需要予測 - 同商品の実績