読んだ目的
- 提案書を書いたり、分析結果の資料化を担当することになり、ドキュメントの作り方を体系的に学び、効率的に作成できるようになる必要性が高まったため
- 仮説ベースのドキュメント作成プロセスと分析の進め方を学ぶため
得られた学び
本書にはドキュメントを作成するためのノウハウが集中的に書かれている。ドキュメント・コミュニケーション(以下、DC)の中でも特に今後に活用したいことを目次に沿ってメモしていく。
3つの原則
解・動・早
- 解:ストーリーを「解っていただく」
- 動:具体的なアクションに「動いていただく」
- 早:「できるだけ早く」アクションをとっていただく
ストーリーとメッセージの違いは本書では次のように定義されていた。
- ストーリー:結論とそれに至った話の筋道、あるいは結論とその理由付け
- メッセージ:いくつか集まってストーリーを構成する個々の文章
解・動・早の3つを達成するために、結論とそれに至った筋道あるいは理由づけのストーリーを解っていただく。ドキュメント制作は動いていただくことを最終目標としているので、読み手に期待するアクションを明示しておく。そのアクションを早くとってもらうために、ドキュメントの随所に「早」を促す文章表現、緊急性を反映した実行スケジュールを提示する。
問題解決コミュニケーション
問題解決は必ずDCを伴い、多くのドキュメントは問題解決案を第三者に伝えるために制作される。問題解決には次の5つのパターンが存在する。
- Trouble 対応型
- Problem 解決型
- Potential Risk 回避型
- Improvement Oppotunity 追求型
- Theme 回答型
トラブル報告書や日報等の業務報告、社員への説明資料等は、単に状況をそのまま報告するだけならば非問題解決コミュニケーションである。価値があるのは問題解決コミュニケーションで、日報でも状況把握するだけでなく、課題抽出・対策を示す問題解決コミュニケーションにすることで価値が上がる。
スタンド・アローン
スタンド・アローンでない資料とはストーリーがない、バラバラで非論理的な構成、難解な文章、図表のメッセージが書かれていない理由により、ドキュメントだけでは完結しないこと。
ドキュメントは口頭で説明できないシーンで使われるケースが案外多く、アクションに(顧客提案が通らない、意思決定が遅れる、回覧効果が上がらない、キャッチアップが遅れる)繋がらない。
ドキュメント作成手順
ドキュメント制作手順は次の4ステップとフィードバックLoopで進める。
- ストーリー作り
- 構成検討
- 図表ページ造り込み
- 全体調整
次から各ステップの具体的な進め方について記述する。
【ストーリー作り】
ストーリーのないコミュニケーションは解っていただけないので、最初に仮説ベースでストーリーを作り上げていく。最初に作成する理由はドキュメントは「ストーリーに沿って構成する」のが最も効果的で効率的に進められるからである。
ストーリー作りは覚悟を持って臨む。自分の思考力をアウトプットし、下記のような風当たりに耐える覚悟を持つ。ストーリーがなければ次のコメントが来る。(実体験)
- ストーリーを示さなければ、「何が言いたいのか」と言われる
- 曖昧なストーリーでお茶を濁せば、「解りにくい」と言われる
- 差し障りのないだけのストーリーならば、「価値がない」と言われる
- 異論・反論を受けてストーリーを引っ込めれば、「その程度か」と言われる
【手順1:空・雨・傘のストーリーを作る】
ドキュメント制作に使えるストーリーは2通りある。
- 空・雨・傘ストーリー
- Becauseストーリー
他の書籍でも紹介されている空・雨・傘の話ではあるが、伝えるべき状況、解釈、行動のそれぞれをメッセージ化する方法で、ロジカル・シンキング(照屋・岡田)で使われている解説型と同じである。Becauseストーリーはロジカルシンキングで使われる並列型ロジックと同じである。
ストーリー作りには「空・雨・傘ストーリー」を使うことをお勧めされている。理由は問題解決との相性が良く、ストーリー自体をパターン化しやすい、決め打ちを防ぎ安い、使用機会が多いことがある。一方、Becauseストーリーは一つの問題で何通りもの理由付けができる可能性があり、思考をパターン化しにくい。
不完全な空・雨・傘ストーリーは次の4症状がある
- 空のみ:状況把握だけで、解釈や行動がない(工場でトラブルが発生した)
- 空・雨止まり:状況把握・解釈はあるが、行動がない(競合品よりコスパが悪く、当社品が売れない)
- 空・傘短絡:状況を見て、安易な行動を導き出す(人手不足なので大量採用)
- 突然の傘:思いついた結論だけ述べる(新規事業はぜひこれをやりましょう)
【手順2:ピラミッド構造まで補強する】
コミュニケーションにはWhy so?が付きもので、空・雨・傘ストーリーに沿って話すだけでは納得してもらえない。空・雨・傘の各要素の主メッセージを補完するサブメッセージをピラミッド構造で補強する。
【手順3:HTDまで拡張する】
WTD(What to do 何をするのか)だけでは仕事は進まず、HTD(How to do どうやって行うのか)がなければ実際の行動には繋がらない。HTDがないと総論賛成だけど、大変そうだから誰もやらないということになるため、具体的なHTDが必要となる。
ストーリー作りは空→雨→傘→HTDと拡張してこそ、動いてもらえる。HTDは優先度、スケジュール、責任体制等の個別項目毎に複数オプションを考えられるため、次の3つを意識してHTDは考える。
- 最もベターそうな空・雨・傘ストーリーの仮説・WTDに対して、最もベターそうなHTDを1セット考える
- 図表の造り込みで、フィードバックLoopを回しながらWTDストーリーが固まった時点で、本格的にHTDを見直す
- そのHTDが必要な理由付けを項目毎に簡単に明示する
構成検討
仮説ストーリーをベースに実際のドキュメントの形にしていくドキュメント化を行う。ここでは仮完成図を作成する。構成検討はドキュメントの基本構成法を学び、仮完成図の作成方法を整理する。
【手順1:基本構成1. ストーリーに沿って構成】
空・雨・傘ストーリーに沿った構成を作る実例があるので、参考になるところをメモする。
事業戦略プラン
- 市場変化と当社のポジション(空)
- 問題の本質と今後の方向性(雨)
- 事業再生のための主要施策(傘)
- 具体的な実行プラン(HTD)
顧客へのコンサルティング提案書
顧客への企画プレゼンテーション資料
- テーマXを取り巻く環境(空)
- テーマXの方向性と成功の鍵(雨)
- テーマX成功のための企画プラン(傘)
- プラン実行に向けた体制・スケジュール・費用等(HTD)
顧客への新サービス導入提案書
- X業務の現状(空)
- X業務の改善ポテンシャル(雨)
- Yサービスの導入効果(傘)
- Yサービスの導入プラン(HTD)
【手順2:基本構成2. ストーリーをベースに「ページ組み」を作る】
ドキュメント制作では「テキストページ」と「図表ページ」のたった2種類のページを使って組み立てる。
- テキストページ:ストーリーメッセージを示すために使われる文章だけのページ。先頭に置き、これから説明されるストーリーを読み手に解っていただく。
- 図表ページ:テキストページに書かれたメッセージの正しさを図表を使って証明・サポートするために使われるページ。テキストページの後に挿入され、各図表ページによって納得してもらうようにする。
【手順3:仮完成図1. ストーリーを「仮テキストページ」に書き下ろす】
階層構造のないシンプルな「空→雨→傘→HTD」構造を一枚の仮テキストページに書き出す。基本的には4つの主メッセージを並べて書くが、要約をメッセージに付与するパターンや補助タイトルをつけるパターンもある。
ピラミッド構造のストーリーを一括型テキストページにする。3層以上の階層型テキストページの場合は全体ストーリーと主メッセージ別で分けて記載する。
【手順4:仮完成図2. メッセージに合わせて「仮図表ページ」を作る】
仮図表ページは「1メッセージ、1テキスト」で作る。作成ステップは2ステップあり、
- 仮テキストページのメッセージの書き写し
- メッセージにフィットする図表を検討し、イメージを考える
図表イメージは各パート毎に使う図表タイプが異なることが多い。
- 空:事実ベース(構成比、分布、相関、フロー、比較表、インタビュー記事等)
- 雨:論理/概念説明(原因把握・課題抽出、ツリー、シミュレーション、概念図)
- 傘:アクション解説(全体コンセプト、全体像、要点、具体的内容、遂行体制)
- HTD:実行促進(優先度、手順、スケジュール、責任体制、実行ポイント)
これらの仮完成図を作る際、ストーリー階層のどこの階層に対応しているかを分かるように、タイトル欄のデザインを工夫する。
図表ページの作り込み
メッセージにあった完成度の高い図表を仕上げる。図表と造り込む過程でメッセージの修正が発生することが多く、この結果図表ページの再修正や新しい図表が作られる。
基本ルールとして「ロジカル・ビジュアル」に造り込む。論理的に正しく、視覚的に強く訴求するということである。ロジカルな図表ページの3条件が次の通りである。
- メッセージに過不足がない(余分な情報は省く)
- ページ内の論理性が保たれている(1つのメッセージに対応する図表のみ)
- 配置・配列に規則性がある(個々の図表の順番に理由を持たせる)
ビジュアルな図表とは次の3条件を満たすページである。
- 図表はできるだけシンプルにする
- 図表とメッセージのイメージフィット
- 最も重要なポイントを目立つ色、表の枠は着色する等のアイキャッチ
【手順1:各パート毎に異なるアプローチを使う】
図表ページの造り込みでは、仮図表ページを本図表ページに仕上げることである。各パート別にアプローチが異なる。
- 空:情報収集・分析で仮説検証を行いながら、図表を作り込む。新たな事実から仮説が修正された場合、メッセージにも反映する
- 雨:自分の概念的な整合性を考える思考力による検証を通じて作り込む。
- 傘:動くメカニズムのカラクリを考えるつもりで捉える
- HTD:脳内でシミュレーションをしながら、少し頑張れば効果が上がりそうだというレベルにスケジュール・人材配置・アクション手順を設定する
【手順2:フィードバックLoopで漏れなく修正する】
図表ページの修正が発生した場合、広範囲に修正の波が及ぶためフィードバックLoopで修正に対応する必要がある。典型的な修正パターンは次の2つである。
- 上位レベルと下流が変化する:空パートの事実が変わると下流の雨以下も影響を受け、上位レベルの全体ストーリーも変化する
- 上流が変わる:雨パートを作成しているうちにメッセージが進化して、追加の情報を集める必要が出てくる
【手順3:各パートは重ねて進める】
一つ一つを完成させてから進めると効率が悪く、4つのパートを重ねて進める。空・雨・傘は少しズレて同時に進め、雨が固まった時点でHTDを考える。
全体調整
機能チューニング、文章チューニング、図表チューニングの3つのチューニングを重ねてドキュメントの完成度を高めていく。資料作成中にチェックできるよう、それぞれの項目におけるチェックポイントを一覧で記載する。
【手順1:「機能チューニング」でアラを無くす】
- ストーリー全体の論理的な整合性はとれているか?
- 客観的な納得性は保たれているか?
- 全体バランスがとれているか?(巨大空、霧雨、穴あき傘、おざなりHTD)
- 読み返してスムーズに流れているか?
- シチュエーションに合っているか?(意思決定、継続MTG、フォーマル)
- Q&A対策が十分にとれているか?
【手順2:「文章チューニング」で表現を磨き上げる】
- 「解りやすさ」と「インパクト」が徹底されているか?
- 「適切な用語使い」になっているか?
- 細かい「誤字脱字や変換間違い」を見逃していないか?
【手順3:「図表チューニング」で名脇役に仕立て上げる】
- 図表ページにメッセージは明示されているか?
- ロジカルに構成されているか?
- 機能的な美しさがあるか?
- 解りやすい図表になっているか?
- 全体のトーンは揃っているか?
今後のToDo
- ドキュメント創りのプロセス(ストーリー作り、構成検討、図表ページ造り込み、全体調整)と問題解決プロセスを統合した仕事の進め方を、自分のチーム内のプロセスで決める
- 全てのストーリー創りで、まずは空・雨・傘ストーリーで考えてみる。becauseストーリーの場合は作成後に組み替える
- 構成検討してから分析依頼を行うようにする
- フィードバックLoopが回すべきタイミングでレビュータイミングをセットする