データサイエンティストの備忘録

外資系コンサルティングファームでデータサイエンティストとして働く筆者がコンサルティング関連の知見やデータ解析技術を活用するために学んだ内容の備忘録

【読書メモ】意思決定のための「分析の技術」

読んだ目的

  1. 分析手法自体の知見は多く溜まってきているものの、より適切に意思決定できるためのインプットにするため
  2. 経営層に刺さるための分析を行うための、分析結果の見せ方・思考法を身につけるため

得られた学び

本書には意思決定のために行う基礎的な分析技術が書かれている。統計学的に高度な手法を扱っているわけではなく、分析の切り口と方法論が整理されている。データサイエンティストとして働いていれば直感的に理解しているものが多いものの、体系的に整理されているため、整理された分析の骨子とその中でも今後に活用したいことをメモしていく。

大きさを考える

経営のための分析ツールとしては、オーダー・オブ・マグニチュードを常に意識して、重要度の程度に応じて適正な関心の払い方、資源投入のあり方を考える。

  • 80対20の法則:100品目ある小売店において、売れ筋の上位20品目で、全売上高の約80%を占める法則
  • 感度分析:ある行為が、結果として全体に対してどれほどの影響を持つかを分析する。いくつかの選択肢を検討する際は、全体像を示して、それぞれの選択肢の感度=影響度の大きさを位置づけた上で作業に取り掛かる習慣をつける。
  • 総資源配分を考える:コストや人材等の資源配分は、構成比を棒グラフで示す
  • クリティカル・マス:成果を上げるためには、一定量を超える資源投入が必要であり、その必要量をクリティカル・マスという。同じ資源でも、逐次投入ではなく、時間の要素を考慮して一度に集中的に投入することが必要となる。

分けて考える

分けるとは、「分けて、要因にさかのぼって理解」することによって、しかるべき法則や仮説を立てて、「経営上意味のある結論」を導き出そうとする明確な意図がある。この分け方が作業に要するエネルギーと成果に大きく影響する。

【分けて考えるための基本原則】

  1. MECE:分け方の軸・分ける際のルールをはっきり自覚して、全体で100%にする
  2. マネジメント・インプリケーションを考えて分ける:具体的な打ち手につながるような分け方をする
  3. 全体を把握して検討対象を位置づける:例えば、全社戦略に位置づけて考える

【多元の要素】

多元要素の中から、重要かつ効果的と思われる2つの指標を同時に取り出して、組み合わせて複合的に考える。

非常に頭のよい人でも、同時に三つのことを考えることのできる人はまずいないが、普通の人でも同時に二つのことまでは考えられる

2軸以上の多元になることは少なくないが、対処方法を5つ列挙する。

  1. 一分野に絞り込み、そのなかで二元要素を考える(例:シェアと伸び率)
  2. 二元分析上に三元目の指標を乗せる
  3. 割り算をする
  4. 多数の要素をより大きな二軸に集約して考える
  5. 多元回帰などの数学的処理法を使う(コンジョイント分析とか)

比較して考える

比較の基本姿勢は次の3つである。

  1. アップル・ツー・アップルを考える
  2. 枠組みを工夫する:単純比較できないものを比較する際には、目的に応じてアップル・ツー・アップルに取り扱えるような正しい枠組みを作る
  3. 説得の手法を考える:比較データを作ることで、売り込みの鍵になる

事例の検討

  1. ギャップ分析:類似した2つの事象の差異を全体を要素に分解して数量的に捉え、差異の原因を説明したり、改善可能性を検討する(例:売上高の製品別分解)
  2. コスト比較:財務諸表等から全体を捉えて推計するマクロアプローチと、部品・要素、または製造工程で分解してコストを積み上げるミクロのアプローチがある
  3. シェア比較:製品・販売、カバー率と競合勝率によるシェアの概念が例である

変化/時系列を考える

時系列で自社の戦略を自覚することが大切である。戦略が明確に定義されていない場合でも、「インプリシット・ストラテジー」が存在している。明らかにするためには、①製品・市場と②業務の流れからなるマトリックス形式にして、どこにどのような資源が配分されているかを見る。

時系列で考える際の着目ポイントは下記の3点である。

  • 大きな流れ/変化を読む:長期トレンドの視点から見ることで、変化を確認する
  • 繰り返し現れる変化のパターンを読む:現象はヒントであり、その背後にどのような理由・根拠があるのかを、今後も繰り返されるのかの妥当性を検討する
  • 変曲点に注目し、兆候を読み取る:絶対量の変化率のに着目し、その意味を常に考える/要因を説明する習慣をつける

これらの要因に気をつけながら、分ける・比較するを駆使して分析する。

バラツキを考える

バラツキを考える時、統計学の立場と経営の立場は少し異なる。統計学上の分散を考えるより、バラツキの意味合いを考えることが重要である。例えば、①現場をより正しく理解して意味を読み取る、②バラツキをいかに活かす・利用できるかを考える、③マネジメントとして、バラツキに対してどのような規律・秩序を持ち込むか考える。分析例としては、下記のものがある。

  • 二元のバラツキ:例えば、シェアを別年度で縦軸横軸にとり、シェア変化を明らかにする。全体が下がっていれば共通要因、バラツキが大きければ個別要因等
  • 法則性を発見する:ラーニングカーブにおけるコストと累積生産量の関係等
  • マネジメント・インプリケーション:明確な法則より「傾向がある」程度であることの方が多い。傾向があっても、表面の現象に安易に飛び付かず、背後にある事情を正しく読み取り、経営上の意義を引き出す/作り出すことが有効である。
  • BDP(ベスト・デモンストレイテッド):バラツキの中から最も望ましいケースを見つけ、全体をそのケースに近づける。
  • ウィル・ツー・マネージ:通常のあるべきバラツキの範囲を超える部分を正しく管理する(例:利益率を一定範囲で確保する)ことで、正常(利益率)を保つ
  • 分けて管理する:2軸で分けて、状況に応じた対応策を考える。

過程/プロセスを考える

目の前の現象(シェアの低下)に対して、直接的な対策(シェア回復施策)を実施しても、原因分析をしない限り根本解決にはならない。根本解決には過程/プロセスを考える。

  • プロセスを追って因果律を考える:機能別に分化された組織構造で意識的に問題の所在をプロセスに沿って考える。前後工程の複雑な絡み合いを正しく認識する
  • モノや作業の流れをとらえる:流路分析(Sankey diagram)やスループット・タイム(個々の工程に要する時間の合計)
  • 漏れの過程を考える:全体像を考え、そこから実ったものに至る全過程を考え、どこで漏れているのかを検証する。シェアに至る要因の分析に利用される。
  • ビジネスシステムを考える:組織をインプット/アウトプットベースで設計したり、戦略の中でも1事業をビジネスプロセス別にどう資源配分するかをKFSをもとに検討する。またビジネスシステムの改善は①フィックス、②バランス、③リデザインの3つの方法で再構築することも考えられる。

ツリーで考える

一つの大きな課題は多くの小課題の複合から成り立っているため、現象を分析し、課題を解決する際には、事象全体を樹状の分岐構造を用いて要素に分け、結節点ごとに意味を考える。

  • ロジック・ツリー:メッセージを裏付けるための論理構成
  • イシュー・ツリー:課題解決のための思考のため
  • 業務ツリー/テーマ・ツリー:現場把握のため
  • ディシジョン・ツリー:与えること選択肢/決断のための数学的評価をするための手法で、複雑な場合は(モンテカルロ)シミュレーション等を活用する

不確定/あやふやなものを考える

経営の非科学的性質があり、「非合理的な不明瞭な要素」を分析するためには信頼性のレベルにより情報を分類したり、ロジックとフレームワーク・プロセスを活用する、多数の意見の集約する(デルファイ法)などがある。

人の行動/ソフトの要素を考える

人の課題を考える分析の手法として次の5つが紹介されている。

  • 枠組みの工夫:フレームワークを使う
  • 事実を把握:記録や実験、調査して、データを収集する
  • あらゆる情報を動員:アンケートやインタビュー、ヒアリング
  • データや情報を効果的に用いる:データ分析・可視化をする
  • 先人の知恵や諸学問分野の成果・学説等を活用する

今後のToDo

  1. オーダー・オブ・マグニチュードを常に意識する
  2. マネジメント・インプリケーションを考えて分析する
  3. 必ず分析は2軸で考える