読んだ目的
- クライアントと会議するときにファシリテーションする機会を得られるようになってきたが、会議の準備をどのようにするか、意見を求めても思っていない方向に議論が進んで結論が出なかったり、意見が出ないことに対処するため
- 参加者として重役の会議に出るが、論点を外したコメントをすることがあり、会議の中で効果的なコメントをできるようになる必要があると感じたため
得られた学び
本書では合意形成を進めるための技術として、ファシリテーションの「仕込み」と「裁き」の技術を身につける必要があると記載されている。それぞれの技術をどのように活用していけるか重要な点をメモしていく。
仕込みーあるべき議論の姿を設計する
ファシリテーションの仕込みでは次の3点を行い、議論の最終目的である行動の決定を進める。
- 議論の「出発点」と「到達点」を明確にする
- 参加者の状況を把握する
- 議論すべき論点を洗い出し、絞り、深める
1点目では、ビジネスにおける合意形成には次の4つのステップがあり、議論の場では4つのステップのどこから話を始め、どこを到達点とするのかをしっかり考えることが重要である。
- 議論の場の目的共有
- アクションの理由の共有・合意
- アクションの選択と合意
- 実行プラン・コミットの確認・共有
2点目では、これらを参加者の状況を予想して、会議前に決める。そのためには参加者が何を知っていて知らないのか(認識レベル)、どんな考え・意見を持っているかといった認識と思考の特徴に目を配る。意見や考えは理由と背景(社内の立場等)を具体的にイメージしながら考えていく。議論では納得感とコミットメントを高めることを目的にしているため、重要な役割を果たすべき人の情報・知見・考えを引き出す。
困ったケースへの対応
- ノイズである困った人の対処:意見を伝えたい欲求を別の形で満たす
- 異なる意見が出ない時:現場に近い立場から付け加える点はないですか?実際に実行される人からすると大丈夫ですか?
3点目では、論点を広く洗い出す。「何について」「どのように」議論するか具体的に設計することで、最も準備すべきが論点で、意見が答えになるような問いである。会議中には論点自体は発言されないことが圧倒的に多く、発言には複数の論点が含まれることが多く、論点の立て方の自由度も高く・複雑である。一部のみに着目して居ることが多く、論点把握を難しくしている。論点把握のステップとしては、①広げる(洗い出す)、②絞り込む、③深めるの3ステップある。
①広げる:①理想的な議論から描く議論すべき論点を押さえ、②議論になりそうな論点の方向から押さえる。既存のフレームワークを利用して、論点整理することも良い。
②絞り込む:広げた論点に重みづけを行い、議論すべき論点と確認する論点を合わせて広く構えておく。
③深める:重要な論点は、議論の切り口とアウトプット/インプットの関係を使って結論に影響を与える論点を深掘り洗い出す。
最終的には「議論の到達点」と「重要な論点とその関係」を頭に刻み、「論点の地図」を持った状態にすることが仕込みのゴールとなる
合意形成・問題解決のステップで実践する
- 問題意識の明確化(What):あるべき姿を具体的に描き、現状と比較してギャップ(問題)を明確にする。「いつ、何が、どの程度」といった具体化して議論・認識合わせする。
- 問題箇所の特定(Where):漏れなく決め打ちせず、全体の傾向をつかみ、ギャップがどこに集中しているかを掴み、優先順位の高い問題点に絞り込む
- 真因の追求(Why):問題点を生む原因を洗い出し、絞り込み、恒久対策につながる本質的・構造的な原因を特定する
- 対策の立案・実行(How):最小リソースで最大効果を狙える対策を具体化する
上記の4ステップで実施する時の注意点を記載する。
- 問題に直面した時、Whyから始めると様々な原因があり影響の大きさが分からないため、水掛論になる。どこに問題があるのか(Where)に立ち返ることが必要
- どこに問題があるか(Where)を考える前に、あるべき姿からそもそもの問題は何か(離職率が高いことは、人材不足/人が辞めることが問題なのか)
合意形成と問題解決の関係は「2. アクションの理由の共有・合意」の中にWhat, Where, Whyがあり、「3. アクションの選択と合意」と「4. 実行プラン・コミットの確認・共有」にHowがある。
場の目的共有
- 議論の場の目的自体は何か?:何を決めるために、議論のゴールは何か
- 合意のための手続きは妥当か?:意思決定に加わるメンバー、情報、時間があるか
- 参加者への期待役割は何か?:
アクションの選択と合意
- 取りうるオプションは何か?
- いくつかのオプションをどのような基準で選択するのか?
- あるアクションをとった際に想定されるリスクは何か?対応策はあるのか?
実行プラン・コミットの確認・共有
- 実行プランをいつまでに、何を、どの程度、どのように実行するか
- 各自の役割、誰の責任で推進するのか?
- 実行時に生じる判断や意思決定をどのように行っていくか
さばきー議論を活性化し、思考を導く
「さばき」とは議論の場で参加者の意見を引き出し、適切に導くための技術である。さばきにおいて、ファシリテーターが主役になるのではなく、控えめな言動を心がける。ファシリテーションの基本ステップは次の4ステップである
- 発言を引き出す
- 発言を理解し、共有する
- 議論を方向づける
- 結論づける
1. 意見を引き出す
最初の「1. 意見を引き出す」ためには、参加者の「発言に対する意欲を高め」、「発言しやすいよう刺激を与える」。その際、ファシリテーターが本当に聴きたいという姿勢を示すことも重要である。
2. 発言を理解し、共有する
次に「2. 発言を理解し共有する」力は、ファシリテーターの最重要スキルである。そのためには①発言を聴き、理解する、②発言を受け止めたことを発言者にしっかり示す、③理解を確認、④参加者全員が発言を理解できるようにするという基本動作を繰り返し、「論点・主張・根拠・発言の目的」を丁寧に読み取る。基本動作として次の4つの聴く姿勢を会議中は徹底する。
- 発言者に顔・体を向ける
- 発言者の目をしっかり見る
- 頷きや相槌を入れる
- 発言を受けて要約する、自分の理解を示す
相手の話を理解し適切に議論に導くステップは次の4ステップである。
- 相手の話を論理の三角形(主張とそれを支える根拠)をイメージして聞く
- 欠落している点が何かを考える
- 欠落している点の中で、重要度の高い部分について話し手に確認
- 議論を進める上で必要な論点や確認が必要な部分を他の人に問いかける
深い理解のためには、まず1点目の主張が演繹的な、もしくは機能的な論理で根拠づけられる論理の三角形をイメージし、その構造を意識しながら話を聞く癖をつけると良い。2点目に、多くの発言は「主張が不明瞭」、「根拠が不足」、「論点が欠落」しているため、発言者の主張が成立するとしたら、どこが欠けていて、本来どのようなものが必要なのかを推定しながら注意深く話を聴く。3点目で、欠落部分を問いかけ、確認していく。
ここで重要なのは、揚げ足取りや批判ではなく、相手の言いたいことを正しく理解し、適切な議論をするためであることを忘れない。
3. 議論を方向づけ
「議論を方向づける」前に、発言に対する対応を決める必要がある。その際に「今ここで議論すべき論点かそうでないか」が重要な判断基準となる。「今ここで議論すべき論点」についての発言の場合、基本はSTAY(何もしない)。必要に応じて論点を再確認したろ、論点を広げ、深めるための働きかけを行う。「今ここで議論すべきでない論点」の場合、意見を論点に転換したうえで、参加者の反発を招かないように注意しながら修正する
「議論の方向」は次の4点で、議論の方向を強く意識するとともに、方向が自然かつ明確に伝わる言葉遣いを駆使する。
- 広げる:論点、意見の幅、根拠の幅、情報の幅を広げる
- 深める:根拠を深める、論点を深める、一致点や対立点を明確にする
- 止める:到達点・必要な論点と関係が薄い意見、結論が出ない議論を切る
- まとめる:論点と結論をセットで要約する、参加者に確認する
方向づけ
方向づけワーディング
- 価格以外に考慮すべき点はないでしょうか?
- 価格が高いのはその通りですが、品質の面を考えるとどうでしょうか?
広げるワーディング
- 論点:論点を示した上で、他の論点があるか聞く
- 他に考えなければいけないことはないですか?
- 他にXXという論点もあると思いますが、それについては?
- 全く違う論点の方はいませんか?
- 意見:論点を示した上で、反対の主張、別の主張を求める
- XXだから賛成ですね?逆に反対という意見はありますか?
- もしXXという制約がないとすればどうですか?
- XXの立場からすると、違ったご意見になるかと思いますが、いかがですか?
- 根拠:論点と結論を示したうえで、別の理由づけを求める
- XXだから賛成という意見ですね。賛成の理由は他に考えられませんか?
- XXの立場に立ってみると別に理由も考えられませんか?
- 情報:前の情報を位置付けた上で
- 前はそうだったということですが、最近はどうですか?
- 例えばXXといった状況はないですか?
「議論を止める」ときは、参加者が「止められた」ことに負の感情を持たないように細心の配慮をする。具体的なワードとしては次のようなものがある。
止めるワーディング
- 今の発言はXXという論点について、YYという意見ですね。XXという論点について結論を出すためには、その前にZZという論点について考える必要がありそうですね。ではZZという論点についてはどう思いますか?
- 動かない場合:今ここでXXという論点について結論を出す理由は何でしょうか?のような形で理由を求める
- XXという論点についてはZZの議論の後に再度議論しましょう。今のXXの議論は、もう少し材料が揃ってから揃ってから議論しましょう
4. 結論づける
議論を「まとめる」「結論付ける」ときには、「決まったこと」「決まっていないこと」を明確にし、参加者に確認する。議論がまとまらないときに、「条件つき合意」を形成することが有効である。
対立をマネジメントする
意見の対立の背後には、「基本となる認識の相違」「考えつく解決策の内容・幅の違い」「判断基準の違い」が存在する。対立の理由がどこにあるか見極めることが重要である。
まず「基本となる認識の相違」があれば、情報を共有するなど、参加者間の情報格差をなくし、認識を揃えるための働きかけを行う。
「考えつく解決策の内容・幅の違い」から生じる対立に対処するには、そもそも取りうるオプションが複数あり、それぞれにメリット・デメリットがあることを認識させ、バランスよく考えられるように手助けする
「判断基準の違い」が対立の原因である場合、目的やあるべき姿を合意可能なレベルまでさかのぼって議論・共有して、合意を引き出し、そこから議論を進めていく
対立の背後にある感情に気を配り、あえて「しっかり議論を戦わせる」場面を作り、感情を吐き出させたうえで、参加者自らが「対立を解決しなければ」と感じるように仕向ける方法も、コントロールは難しいが有効である。
感情に働きかける話を導く、話をまとめる
ファシリテーションの対象は感情を持った人間。感情に配慮することが必要であり、感情に働きかけることが効果的である。特に議論の初期段階では、創造的・活発・安心感がある雰囲気作りを心がける
議論のテーマ・内容に対する参加者の感情を考え、備える。
「ネガティブ」な感情を持っているのであれば、まずはその感情を表に出させて認める。具体的になコメントの例は次のようなものがあり、理解していることを示し安心感を与えるようにする。
- 「この件はXXさんにとってあまり気持ちの良い話ではないと思いますが・・・」
- 「XXさんの立場では理解しがたいと思われるかと思いますが・・」
「無関心」であれば、関心を持てるように一定レベルの認識を形成する、もしくは感情を刺激することで関心を醸成する。特に自分にとってどうゆう意味を持つのかを示し、当事者意識を持ってもらえるようなコメントをする。
- この状況はXXさんにの仕事にYYの影響を与えると思いますが・・
- この問題が起きると、XXさんの部門にどういった影響が出るでしょうか?
ファシリテーションは①しっかりコントロールすべき時と、②極力コントロールしない時があり、使い分けは時間的緊急度と参加者の生産的な議論を行うことに対する習熟度を加味して選択する。
今後のToDo
- 会議前には論点整理を行い、自分の中でディスカッション内容がどこの内容について議論されているかを明確に理解する
- 自分がファシリテーションをする前はさばきの技術を復習する